一言でまとめると
他の病気が原因となっていることがあるため、症状がなくても医療機関での再検査や原因検索をお勧めします。
カリウムとは
成人の体内には約200gのカリウムが含まれています。そのほとんどは細胞内に存在し、細胞外液に含まれるナトリウムと相互作用することで、細胞の浸透圧を維持し、水分を保持する上で重要な機能を担っています。
浸透圧の調整をする
細胞内の体液は細胞内液、細胞外の体液は細胞外液と呼ばれます。細胞内液に多く含まれるカリウムは、細胞外液に多く含まれるナトリウムと協力し、細胞の浸透圧をコントロールして安定した状態を保っています。
細胞の浸透圧が最適なレベルに保たれていないと、動物の細胞は正常に機能しなくなります。健康な体の場合、カリウムやナトリウムの働きにより、体内の浸透圧は自然に調節され、恒常性が保たれています。大量の発汗や発熱、下痢や嘔吐などにより水分を大量に失うと、浸透圧のバランスが崩れ、水分とともに塩分も失われ、脱水症状を引き起こします。その際に必要となるのが、カリウムなどミネラルの補給です。
ナトリウム
(塩分)を排出する
カリウムには余分なナトリウム(塩分)を排泄する作用があります。ナトリウムはカリウムと同様に人体に必要なミネラルで、似たような働きをしています。カリウムは細胞内液に多く含まれていますが、ナトリウムは細胞外液に多く含まれており、両者は協力して浸透圧の調整と維持を行っています。カリウムは尿へのナトリウムの排泄を促進します。塩分の多い食事を摂り過ぎた際には、積極的に水分摂取をしつつカリウムを摂取することをお勧めします。
カリウムの1日の摂取基準量
日本人の食事摂取基準によると、カリウムの1日当たりの推奨摂取量は、18歳以上の男性で2,500mg、女性で2,000mgです。生活習慣病予防の観点からは、18歳以上の男性で3,000mg、女性で2,600mgが推奨されています。また、世界保健機関(WHO)は2012年に高血圧予防の観点から、成人では1日当たり3,510mgの摂取を推奨しています。カリウムの含有量が高い食べ物は、ホウレン草やブロッコリー、さといも、海藻類(ひじき、昆布)などです。
また、腎機能が正常でサプリメントなどを常用していない場合、通常の食事による過剰摂取のリスクは低いと考えられるため、耐容上限量は定められていません。
カリウムが低いとどうなる?
動物性食品にも植物性食品にもカリウムは豊富に含まれているため、通常の食事でカリウムが欠乏することはほとんどありません。しかし、利尿作用のある降圧剤を長期間使用している場合や、嘔吐や下痢が長期間続いた場合などは、カリウムの排泄量が多くなり、カリウムが欠乏することがあります。カリウムが不足すると、脱力感、筋力低下、食欲不振、骨格筋の麻痺などの症状が現れることがあります。
カリウムが低くなる病気
低カリウム血症
低カリウム血症とは、何らかの原因によって血液中のカリウム濃度が低くなる状態です。血液中のカリウムが不足すると、筋肉の動きや神経機能に異常が起こり、体にさまざまな症状があらわれます。低カリウム血症は、生活習慣病や腎臓病、糖尿病、心臓病、高血圧、甲状腺などとも関係しているため、慢性疾患をお持ちの方で、筋力の低下などを感じた場合は、早めに当院へご相談ください。
カリウムが低くなる原因
低カリウム血症の原因は主に①偏食などによる摂取不足 ②カリウムの体外排出の亢進 ③血液中のカリウムの細胞内への移動などです。体外排出は消化管と腎臓の2つの経路があり、消化管からの排出は嘔吐や下痢などが原因となります。腎臓からの排泄にはアルドステロンの異常増加が関与します。細胞内へのカリウム移動は主にインスリンが引き金となり、糖尿病治療のインスリン注射で発生することがあります。甲状腺機能亢進症も同様に細胞内移動を促します。漢方薬に含まれる甘草はアルドステロンと同様に作用し、低カリウム血症をきたします。
低カリウム血症の症状
カリウム不足は筋肉や神経に影響し、手足の脱力感や筋肉痛、動悸などが初期症状として現れます。下痢などが原因の場合は速やかに回復しますが、症状が長引く場合は治療が必要です。進行すると、足の麻痺や歩行困難などが生じ、入院が必要になることもあります。また、意識障害、多尿、排尿困難、便秘、イレウス(腸閉塞)に繋がることもあります。不整脈が発生する可能性もあるため、心臓病がある方は特に注意が必要です。さらに、糖尿病の方はインスリン投与が低カリウム血症を悪化させる場合があるため、慎重な管理が求められます。
低カリウム血症の治療
原因を特定し、それに応じた治療を行います。他の病気が原因であればその治療を行い、特定の薬が関与している場合はその服用を中止するだけでも改善する場合があります。軽度であればカリウムを含む内服薬を使用し、中等度~重症の場合は塩化カリウムを含む輸液を点滴します。原因によって対症療法も変わります。
軽症であればサプリメントで改善することもありますが、他の病気や薬が原因の場合は血液検査などのフォローも必要なためサプリメントはお勧めできません。また、原発性アルドステロン症が原因であれば、薬物治療のほかにも手術で完治する可能性もあります。
当院では高血圧や甲状腺などで定期通院中の患者さんにはカリウムのチェックを含めた血液検査を定期的にフォローアップしており、低カリウム血症に対して上記のような原因検索や治療を行っていきます。
カリウム不足を解消する食べ物
カリウムは藻類、果物、いも類やでんぷん質の野菜、豆類、肉類、魚介類、野菜などに多く含まれています。生鮮食品には多く含まれていますが、加工や精製が進むにつれて含有量は減少します。カリウムは水溶性なので、煮たり、茹でたりすると水に溶け出します。サラダなど生野菜で食べたり、生の果物と一緒に食べたりすると効率的に摂取できます。カリウムにはナトリウム(塩分)を排出する作用があるため、味噌汁の塩分(塩化ナトリウム)が気になる方は、カリウムを多く含む野菜を具材としてたっぷり入れると良いでしょう。
カリウムを
効率よく摂取する方法
カリウムを積極的に摂取したい場合は、調理によるカリウムの損失を最小限に抑えることが重要です。具体的な方法としては、以下の4つが挙げられます。
生のまま食べる
カリウムは水溶性なので、煮たり茹でたりすることによってカリウムが水に流れ出てしまいます。野菜はサラダにして、果物は皮をむいてそのまま食べるなど、できるだけ生で食べると良いでしょう。
スープなどにして汁ごと食べる
カリウムを含む食品を調理する際は、スープを作ることをお勧めします。そうすれば、溶け出したカリウムを無駄なく摂取することができます。野菜を加熱すると量が減るので、1回で多くのカリウムを摂取できます。
レンジで加熱する
野菜を調理する際、カリウムを残すには電子レンジで加熱する方法が茹でるよりも適しています。
精製されていない穀類を選ぶ
玄米や全粒粉などの未精製の穀物は、白米などの精製された穀物よりもカリウムを多く含んでいます。また、白砂糖よりも黒砂糖やきび砂糖を選ぶのも良いでしょう。